税法と信義則
こんにちわ!白金の公認会計士Fです。
先日、とある研修ではっとさせられるような内容がありましたので。
研修のテーマは憲法・行政法についてでしたが、その中でとりわけ税法と信義則との関係について。
税法とは言うまでもなく、税務官庁や納税者が守るべき法律ですが、法治国家である以上、税務官庁は税法に基づいて課税し、納税者も税法に基づいて申告をしなければなりません。
この点、租税法律主義といわれていますが、法律の最上位に位置する憲法では、次のように規定されています。
第30条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負う。
第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
つまり、租税法律主義に従い、税法に規定されていないものについて、課税することはできないということになります。
とはいってもすべての経済的取引を税法に規定することは不可能なので、経済実態に応じて税法解釈することで実質課税をすることもありますし、法律に規定されていないことについて、通達等で運用することもあります。場合によっては納税者が税務相談などで確認することもあるでしょう。
ここで税法と信義則の対立がおこってしまいます。
信義則については、民法の大原則として次のように規定しています。
第1条第2項 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
研修では税法と信義則が対立した判例としてB専門学校の事例が紹介されました。
要約するとB専門学校は各種学校だったのですが、学校の土地、建物の固定資産税を非課税としたいので、学校法人への変更を考えて税務官庁に相談したところ、B専門学校は非課税通知を受け取り固定資産税の納付は行いませんでした。
それから8年後、固定資産税の非課税は事実誤認であったことがわかり、時効となった期間を除く5年分の固定資産税を賦課したという事案です。
これは明らかに税務官庁の失態なわけですが、間違ってました、すいませんでは終わらず、租税法律主義に照らして課税しなければならないんです。
あまりにも不合理だと思うのですが、これが現実です。
この事案は一審は信義則の適用を認め、二審では逆転判決となりましたが、結局和解となり最高裁の信義則に対する判断がなされないまま裁判は終結。
もう一つ、酒屋さんの青色申告事件というものがあって、これは最高裁まで争われ、信義則に対する一定の見解が出され、今ではこれが信義則を租税法律主義に優先して適用する場合の要件とされているようです。
ちょっと長くなりますが、そこで示された要件を記載しておきます。
①税務官庁が納税者に対し、信頼の対象となる公的見解を示したこと
②納税者がその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したこと
③のちに公的見解の表示に反する課税処分が行われたこと
④そのために納税者が経済的不利益を受けることになったこと
⑤これらについて納税者の責めに帰すべき事由がないこと
これらから税務相談などでの見解に基づくものは公的見解とはいえないので、仮に言われたとおりに申告をしたとしても、間違いであった場合、課税されることもありうるということを示しています。
それだけ信義則に関しては非常に限定的なものになっており、日ごろ税法を扱っているものとして、考えさせられる内容でした。