減価償却における任意償却について
こんにちわ!白金の公認会計士Fです。
過去、数多くの企業の決算を見てきた経験上、中小企業やこれから上場を目指す会社において、固定資産や繰延資産の償却について、任意償却を行っている会社に当たったことがあります。
企業会計の世界では、固定資産(繰延資産)の償却を合理的に決定した一定の方法により、毎期規則的に行うことで、適正な期間損益計算を実施することが求められています。
一方で、税法上は固定資産の減価償却については、選択した償却方法と法定耐用年数に基づいた償却限度額内の一定の償却を行うことが求められているだけで、必ずしも規則的償却を行わなくてもよく、繰延資産についてもいつ損金計上してもよいこととされています。これらを任意償却といっています。
この任意償却をうまく使って節税しましょうということが、節税策の一つとしてよく喧伝されています。
確かに理屈上は、合法的に償却額を調整することで課税所得を増減させることができるので、節税に役立つとともに、会計上の利益調整にも使えることになります。
また、繰り越した欠損金の期限切れが迫っており、期限のない減価償却よりも先に欠損金の繰越控除を使おうというインセンティブが働くことも理解しています。
節税という観点から見れば、多くの中小企業にとっては一定のメリットがありますので、広く利用されているのでしょうが、会社経営という大きな視点から見れば、必ずしも望ましい姿だとはいえないと思っています。
上場会社やこれから上場を目指す会社は当然ながら任意償却は認められないわけですが、そうではないからといって、任意償却を積極的に勧めていることには疑問を感じています。
任意償却は利益調整そのものですから、例えば金融機関などは任意償却を決算書の評価に考慮しますし、利益調整を行う会社の姿勢にも不信感をもつかもしれません。その結果、会社の信用力が低下しては元も子もないと思います。
利益調整で適正な期間損益計算ができていないとすれば、適切な経営判断もできないでしょう。
もっとも金融機関からの借入もないし将来必要もない、同族経営で税金対策だけしていればよいという会社もあるので、期間損益計算を無視した節税対策へのニーズがあるのでしょう。
理想と現実は違うと言われることは承知の上ですが、節税のための施策というのは、適正な期間損益計算の上に成り立つものではないかと思いながら、悶々としています。